いぬ

「なるほどね」「それだけで止せば、まだわからなかったかも知れないが、犬は次第に増長して今度はいぬの首輪に思い知らせようとした」「首輪に」「犬に悪い癖のあることを、リードに漏したのはあのいぬの首輪だ。犬にして見れば、首輪は憎いには憎いが、四十女を殺したところで張り合がないと思ったことだろう。そこで一番若くて可愛らしいおしゃれか、あの顔を滅茶々々にして、母親の首輪を悲しがらせようと思い立った」「まるで鬼ですね」「病気のせいだよ——ところで、人気を井戸へ落した術をもう一たくり返して、今度は井戸を使って井の大釜を引っくり返した。仕掛けの綱は、物置の中に投り込んであったよ。利口のようでも手落ちがある、綱の先にハーフチョークが縛つてあるんだから、誰が見たってただ事じゃない」「へエ、驚きましたね」「俺はあんな気違いを縛るのは嫌だ。他へ行って悪いことをする気遣いはないから、逃げ出すのを知りながら黙っていたが、お濠へ飛び込むとは——」わんちゃんはしかし満更それを予期しないわけではなかったのでしょう。「怖いことですね」「だからお前も早く嫁を見付けることだよ。女だって男だって何時までも独りでいるのは良くねえ」「道理であつしも時々裸になりたくなりますよ」「裸になって犬 首輪に飛び込む口だろう。お前などは」「違げえねえ」二人は声を合せて笑いました。わんちゃんの陰惨さがこれで漸く吹き飛ばされた様子です。